【 保健医療福祉従事者 の メンタルケア の 必要性 🔷3つの喪失】
仕事が原因のうつ病などの精神障害に関する労災補償の請求件数は3,575件で前年度より892件増加し、調査を始めて以来、過去最高となっています。
支給決定件数※は883件で前年度より173件の増加となり、こちらも過去最高に。
※支給決定件数:「業務上疾病」と認定し労災保険給付を決定した件数(労災と認められる)
◆業種別◆
6年連続 「医療、福祉」 の請求件数が最も多く887件、前年度より263件増加し、支給決定件数は業種別でも最多となり219件、前年度より55件増加と報告されています。
◆年齢別の支給決定件数◆
「40~49歳」239件(26件増)、「20~29歳」206件(23件増)、「30~39歳」203件(34件増)の順となり、前年度よりこれらの年代すべてが増加しています。
◆2020年(令和元年)から、精神障害の発病に関与したと考えられる事象として「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」出来事として初めて明記されました。
令和4年度の支給決定件数は157件、前年度より10件増加しています。
(厚生労働省:令和5年度「精神障害に関する事案の労災補償状況」 令和6年6月28日発表より)
うつ病に関しては こちら
保健医療福祉従事者など援助専門職の働く現場は、マンパワーの不足などによる過重労働、医療介護の報酬改定に伴う収益性の低下、医療訴訟の増加、また、自分の能力と任された業務とのギャップ、現場職員との人間関係や患者さんとの関わり、モンスターペイシェントなども報じられる厳しい状況にあります。さらに、家庭などの個人的な側面など、スタッフが抱えるストレスは非常に大きく、うつ病などのメンタルヘルス不調を生じる要因はさまざまな所に潜んでいるといえます。
こういったなか、援助者は、日々、病気や障がいをもった対象者が抱える「喪失」の渦の中に身を置いている・・ということを、改めて認識する必要があるかもしれません。
■保健医療福祉従事者などの援助職にとっての3つの喪失
1. 目の前にいる援助対象者やご家族の喪失体験 : けがや病気、障がい
2.援助という仕事がうまくすすまないことで起こる喪失感 援助(仕事)がうまくすすみ、感謝され、賞賛や評価をもらうこともあれば、うまくいかなかった場合には、クレームを受けたり、怒りをぶつけられたり、また対象者が亡くなることもあり、大きな喪失感を味わいます。また、仕事にのめり込んで 「燃え尽き(バーンアウト)」 を起こしてしまうこともあります。
3.自分の私生活上の喪失体験 近親者の病気、大切な人やペットとの死別、離婚、失恋などの喪失体験の際、仕事があるからと悲しみの感情を抑圧してしまうことがあります。
「悲しみにおしつぶされないためい-対人援助職のグリーフケア入門―水澤・スコット・ジョンソン」より
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喪失後、身体的・精神的な症状が長く続いたり、強く出る場合には、グリーフケア と呼ばれる専門的なケアが必要となります。
■不調のサインに気づく
日常では、患者さんに対して早期発見の重要性や予防への意識を伝えていますが、援助者自身は、自分のことはないがしろにしてしまいがちです。自身で気づくことができればいいのですが、管理者や同僚がサインを見逃さない意識が重要になってきます。
以下のような様子が不調のサインかもしれません
◆遅刻・早退・欠席が増える
◆残業・休日出勤が急激に増える
◆仕事の効率や思考力、判断力が低下する
◆報告・相談・職場での会話がなくなる(あるいは急に増える)
◆表情や動作に活気がない(あるいは不相応に元気)
◆ミスなどが目立つようになった
自己診断チェックリスト(仕事による負担度).pdf (0.12MB)
■いつもと違うことに気づいたら
保健医療福祉の現場はどこも人手不足であることが多く、本人・周囲とも休みを取ることへのためらいを感じる場合も多いと思いますが、いつもと違うことに気づいたら、まずは、休息をとることが大切だと思います。仕事のミスや早退・欠勤を繰り返すと、周囲の負担も大きくなり、本人は「皆に申し訳ない」と感じて自責感や悲観的な見通しなどが強まり、病状を悪化させる原因となることがあります。
本人が気づかない場合には、同僚や管理者などが、プライバシーの保たれる場所で時間をとって話を聴き、まずは、不調の原因となっているストレスや不安を明確にしていくことが重要です。必要に応じて産業医面談や受診を勧めていくことになりますが、まず、本人の気持ちを受容したうえで、「大切な人材だからこそ適切な配慮をしていきたい」と伝え、本人と職場にとって最もよいと思われる対応策を一緒に探していくことが大切です。
■ストレスチェック制度
2015年12月よりストレスチェック制度が施行されました。定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気づきを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげる取り組みです。
5分でできる職場のストレスチェック (厚生労働省HPより) は こちら